核融合炉

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核融合炉(かくゆうごうろ)とは核融合反応を利用した反応炉のこと。21世紀後半の実用化が期待される未来技術のひとつ。

概要[編集]

重い原子であるウラニウムプルトニウム原子核分裂反応を使った核分裂炉に対して、軽い原子である水素ヘリウムを使った核融合反応を使ったのが核融合炉である。現在、日本を含む各国が協力して国際熱核融合実験炉ITERフランスでの建設に向けて関連技術の開発が進められている。ITERのように、核融合技術研究の主流のトカマク型の反応炉が高温を利用したものであるので、特に熱核融合炉とも呼ばれることがある。

太陽のような恒星が輝くのは、すべて軽い元素の核融合反応による熱エネルギーによるものである。核融合炉が「地上の太陽」と呼ばれる由縁であるが、これら恒星は自身の巨大な重力で反応を維持できるのに対して、地上で核融合反応を起こするためには極めて高温にするか極めて高圧にする必要がある。

核融合反応の過程で高速中性子をはじめ、さまざまな高エネルギー粒子の放射が発生するため、その影響を最小限に留めて、安全に反応を継続する技術の開発や、プラズマの安定的なコントロ-ルの技術、超伝導電磁石の技術、遠隔操作保守技術、リチウム重水素三重水素を扱う技術、プラズマ加熱技術、これらを支えるコンピュータ・シミュレーション技術が必要とされ開発が続けられている。また、巨大科学に属する核融合炉の開発には莫大な資金投資が必要とされるので、今後は各国国民に上手に説明する技術も必要とされる。

核融合反応[編集]

原子核融合 も参照 原子番号28ぐらいまでの軽い元素では、核子一個あたりの結合エネルギーが比較的小さいので、原子核融合によって余分なエネルギーが放出される可能性がある。しかし、原子核の電荷が互いに反発して反応を阻害するため、実際にエネルギーを取り出して利用できるような形で反応を起こすことが可能なのは、電荷がごく小さい水素リチウムなどに限られると見られている。実際に核融合反応で発電するためには、原子核が毎秒1000km以上の速度でぶつかりあう必要がある。これを臨界プラズマ条件と呼び、この速度の実現には、D-T反応(重水素三重水素の反応)では「発電炉内でプラズマ温度1億℃以上、密度100兆個/cm<math>{}^3</math>とし、さらに1秒間以上閉じ込めることが条件」と、いうことになる。2007年10月現在、この条件自体はJT-60及びJETで到達したとされているが、発電炉として使用出来るまでの持続時間等には壁は高く、炉として実用可能な自己点火条件と言われる条件を目指し挑戦がつづいている。

利点[編集]

  • 核分裂による原子力発電と同様、二酸化炭素の放出がない
  • 核分裂反応のような連鎖反応がなく、暴走が原理的に生じないこと
  • 水素など、普遍的に存在し、かつ安価な資源を利用できること また自然界中の無尽蔵の重水素リチウムを活用していく構想があること
  • 高レベル放射性廃棄物が継続的にはあまり生じないこと
  • 従来型原子炉での運転休止中の残留熱除去系のエネルギー損失やその機能喪失時の炉心溶融リスクがないこと

などが挙げられる。

欠点[編集]

  • 超高温で超真空という物理的な条件により、実験段階から実用段階に至るすべてが巨大施設を必要とするため、莫大な予算が掛かること
  • 技術的困難による実現可能性への疑問 つまり1億度程度の高温でなければ十分な反応が起こらず、そのような高温状態では物質はプラズマ状態となり通常の容器に安定して収納することができず、そもそもこのような高温に耐えられる融合炉の材料が無い点等にある そのため磁力線を利用してプラズマを保持する磁気閉じ込め方式などが開発された
  • 炉壁などの放射化への問題解決が求められること(後述)

安全性[編集]

反応の停止
核融合反応は核分裂反応と違って反応を維持するのが技術的に大変困難であり、あらゆる装置の不具合や少しの調整ミスが自動的に核融合反応の停止に結びつき、簡単には反応を再開出来ない。これは安全にとっては良い特性であり、現在の核分裂を使った商業用原子炉の欠点とは無縁である。
超伝導電磁石
超伝導電磁石とそれを支える構造支持体は運転中に連続して大きな力を受け続け、起動や停止時にはその変化に応じた力学的ストレスを受ける。また異常に応じて磁力を突然切る場合は、瞬間的に大きな変化に耐えねばならず、中性子を浴び続ける構造支持体が脆化しても支えきれるだけの安全度を確保することが求められる。

核反応[編集]

核融合炉において,使用が検討されている反応は主に以下の3つである。なお、以下 Dは重水素、Tは三重水素(トリチウム)、pは水素原子核、nは中性子、Heはヘリウムである。

D-D反応[編集]

  • D + D <math>\to</math> T + p
  • D + D <math>\to</math> <math> {}^3</math>He + n

自然界でも原始星で起きている反応の一つである。核融合炉として使用する場合資源の入手性が非常に良いが、反応条件が厳しく、D-T反応の10倍厳しい反応条件を達成する必要がある。なお、JT-60を含む多くの核融合開発を目的とした実験装置において、重水素を使う実験が行われている結果、この反応が起きている。もちろん、投入エネルギーを回収出来る程ではない。

D-T反応[編集]

  • D + T <math>\to</math> <math> {}^4</math>He + n (14MeV)

反応条件が緩やかで、最も早く実用化が見込まれている反応である。核融合炉として使用する場合トリチウムの入手性に課題がある。トリチウムは、自然界においては、大気の上層でわずかに生成されるのみであり、半減期の短い放射性物質であるため事実上採取は不可能である。また、高速中性子が生成するため、炉の材質も検討が必要となる。現在検討されているトリチウム入手法は、核融合炉の周囲をリチウムブランケットで囲み炉から放出される高速中性子を減速させつつ核反応を起こし、

  • <math>{}^6</math>Li + n <math>\to</math> T + <math>{}^4</math>He + 4.8MeV

トリチウムを得ることである。このときブランケットは高速中性子を減速して遮蔽し、燃料を生産し、反応熱を取り出すと言う3つの役割をすることになる。JETおよびTFTRにおいてはこの反応を主反応とするような実験が行われた。

D-<math> {}^3</math>He反応[編集]

  • D + <math>{}^3</math>He <math>\to</math> <math>{}^4</math>He + p

反応がD-T反応の5~6倍程度の条件とD-D反応程ではないが比較的起こりやすく、発生するエネルギーも荷電粒子である陽子が担い放射性物質も出ないので炉が扱いやすいこと(但し副反応のD-D反応で中性子が発生する)と、直接電力にエネルギーを変換することが可能なことで注目されている反応である。しかしながら、地球上にはヘリウム3がほとんど存在しないことが大きな問題である。アポロ計画の探査の結果太陽風によりには大量のヘリウム3が存在することが明らかになったが、実用化は非常に遠いと見られる。中華人民共和国の月探査計画はヘリウム3採取を最終目的にしている。また、太陽系内宇宙を舞台とした近未来サイエンス・フィクションにおいて木星や、月表面から採取したヘリウム3を燃料とした核融合がエネルギー源という設定になっていることがある(ガンダムシリーズプラネテスMOONLIGHT MILE等)。

核融合反応の候補[編集]

下記の核融合反応が核融合炉で利用可能と考えられている。

  • D + T <math>\to</math> <math>{}^4</math>He (3.52) + n (14.06)
  • D + <math>{}^3</math>He <math>\to</math> <math>{}^4</math>He (3.67) + n (14.67)
  • D + D <math>\to</math> <math>{}^3</math>He (0.82) + n (2.45)
  • D + D <math>\to</math> T (1.01) + p (3.03)
  • p + <math>{}^6</math>Li <math>\to</math> <math>{}^4</math>He (1.7) + <math>{}^3</math>He (2.3)
  • p + <math>{}^6</math>Li <math>\to</math> <math>{}^4</math>He + D + p - 1.5MeV
  • n + <math>{}^6</math>Li <math>\to</math> <math>{}^4</math>He + D + n - 1.5MeV
  • D + <math>{}^6</math>Li <math>\to</math> <math>{}^4</math>He + T + p + 2.3MeV
  • D + <math>{}^6</math>Li <math>\to</math> 2<math>{}^2</math>He (1.12)
  • D + <math>{}^6</math>Li <math>\to</math> <math>{}^4</math>He + <math>{}^3</math>He + n + 1.8MeV
  • D + <math>{}^6</math>Li <math>\to</math> <math>{}^4</math>He + 2D + n - 1.5MeV
  • <math>{}^3</math>He + <math>{}^6</math>Li <math>\to</math> 2<math>{}^4</math>He + p + 16.9MeV
  • p + T <math>\to</math> <math>{}^3</math>He + n - 0.8MeV
  • p + <math>{}^1</math><math>{}^1</math>B <math>\to</math> 3<math>{}^4</math>He + 8.68MeV

(カッコ内は反応生成物のエネルギー MeV) [1]

現状と問題点[編集]

現在最も研究が進んでいるのは、磁気閉じ込め方式の一種であるトカマク型であり、現在計画中のITER(国際熱核融合実験炉)もこの方式を用いている。しかし、このトカマク型にも弱点がある。核融合の際に発生する中性子が炉壁などを傷つけるためにその構成材質の耐久力が問題となる。とりわけITERでは前述のD-D反応よりも反応断面積が約10倍大きいD-T反応を用いる計画であるが、D-T反応では高速中性子が発生する。

この高速中性子により炉の構成材内部では使用温度等にも依存するが、照射脆化が進行する場合がある。つまり原子が弾き飛ばされ材料内部に原子空孔(vacancy)や格子間原子が生じ(フレンケル対)、弾き出しが連鎖衝突した結果発生するつながった格子欠陥カスケード損傷)により、これらの点欠陥集合体や析出物の形成等が生じることによって材料の降伏強度が高まるに伴い脆くなる。また構成材の原子が核変換を起こし発生したヘリウムガスが原子空孔と結びつくことによって材料の内部に空洞を形成し膨張する問題(スウェリング)も発生する場合がある。こういった劣化が一定以上進めば、もはや十分な耐久性を維持出来ないために交換を必要とする。また、構成材内部とは別に炉壁表面でも問題が生じる。プラズマイオンが炉壁に衝突すると物理スパッタリングと呼ばれる炉壁材料原子のはじき出しが起こる。炉壁面に炭素素材を使用すると、水素同位体の入射でメタンやエチレンなどの炭化水素が発生して、炉壁が損耗する化学スパッタリングという現象も起こる。

その他、各種の閉じ込め方式があり、それぞれ各国で研究が進められている。日本では、核融合研究の中心は日本原子力研究所JT-60(トカマク型)、核融合科学研究所などで進めているヘリカル型と、大阪大学で研究が進んでいるレーザー核融合である。

圧力の低いプラズマを保持することは比較的容易であるが、エネルギーとして利用可能な程度の圧力のプラズマを保持するのは難しく、前述のJT-60で、高圧力プラズマの保持時間は30秒程度である(この30秒という時間は加熱装置である高周波装置と中性粒子ビーム装置の稼働時間の上限で決まっているようである。現在ITERのために1000秒以上稼働できる装置を開発中である。)。また、保持のために投入するエネルギーに比較して反応により得られるエネルギーはまだ小さく(エネルギー増倍率(Q値)~1.25)、世界の各種装置で核融合利得1を若干超える程度である。これらの課題については、ITERで研究が進められる予定である(ITERの目標値はQ値~10)。

近年、常温核融合の発見が世間を賑わせたが、その後の追試験で測定に問題があるとの認識が高まり、現在では研究も下火になっている。

脚注[編集]

  1. 核融合炉工学概論 関昌弘編 日刊工業新聞社 ISBN4-526-04799-6

核融合炉の種類[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]